金沢21世紀美術館「
オラファー・エリアソン あなたが出会うとき」は、開館5周年を記念した展覧会です。
オラファー・エリアソンについては、今年の夏に森美術館の「万華鏡の世界」に出品されていた作品を見て好きになりました。その投影光を使ったインスタレーションは、美しいだけではなく鑑賞者との有機的なつながりを感じさせるものです。
美術館に着いた頃には、雪はやんでいました。

入場前に、「ご入場のみなさまへ 注意とお願い」という紙片を渡されました。
そこには「作品には触れない」「強い光を使った作品は光源を直視しない」等の指示がありました。鑑賞前の注意事項もこれくらいはっきりとアナウンスしてくれると、展示室ごとに注意点を小出しにされるよりもむしろ印象は良いかもしれません。
展示会場は、結局2周しました。
企画展スペースの入り口付近に配置された作品は「スターブリック」。黒と黄色の虎カラー(?)があまりオラファーらしくない印象です。その次に現れるのは展示室をそのまま作品とした「あなたが出会うとき」。展示室中央に光源が置かれており、それに円筒状のカバーが掛けられている作品ですが、このカバーは真上から見るとCの形をしたパーツが2枚組み合わされたもので、それが回転することにより生じたスリットから、光が外部に漏れ出すという構造になっています。この光の扉が開かれた先に鑑賞者がいればその影は壁に大きく投影され、スリットの移動によりやがてそのシルエットは闇の中へと溶けていきます。
この、「光との邂逅」が「あなたが出会うとき」ということなのでしょうか?
続く展示室は「一色の部屋」と名づけられています。オレンジ色の光で充満された空間に、少々気分が悪くなりすぐに出てしまいましたが、ここは2回目に訪れたときにはすごい発見が…それは後述。
「目になった身体」はビデオインスタレーション。モニターの周囲にミラーが立体的に配され、万華鏡のような構造になっています。画面の中では2つの手が手話のような動きをしており、それが周囲に増幅して映し出される様子はまるで印相によって構成された曼荼羅のよう。
「人生は線によって営まれる」はスクリーンの向こう側に、細い金属棒によって構成された複雑な多面体やメッシュによる球、螺旋状の物体が吊り下げられており、その奥から強い光を当てられることにより、これらのシルエットがスクリーンに投影されるという作品。
余談になりますが、以前訪れた
オーストリア応用美術博物館では
イスのコレクションをこのような方法で展示していました…シルエットだけを見せることによりまずはそのフォルムに注目させようと思う工夫ですね。
「グラデーション」「虹色」はこの展覧会のいたるところで現れる構成要素です。
その隣の展示室にある作品「ゆっくり動く色のある影」では光源とスクリーンの間を鑑賞者が歩くことにより、そのシルエットが様々な色で出現します。こちらもそれに応えるようにいろいろな速度で右往左往してみます。
床面にスポットライトの丸い光が投影されただけに見える「ワナビ」は、「ミスター・ビーン」のオープニングを思い出す人が3割程いそうな作品。
その後も光の照射、投影による作品が続きます。
手元の資料ではタイトルが確認できないのですが№19の作品は、光源の前を歩くと、様々な色のシルエットがスクリーンに投影されるもの。しかもそれだけではなくそのスクリーンの裏側は万華鏡のような仕掛けが施されており、投影された人影は、裏側から見るとさらに増幅して見えます。
この仕組みに気づいたところで、しかし私はひとりで来館したためこれを確認することができません。万華鏡側に立ち、スクリーンの向こう側を他のお客さんが通ってくれるのを待ってみますが、たまたま通りかかった二人組のお客さんはこの装置を眺めるだけで通過。おしい…と思たその時、ふと監視スタッフの女性がイスから立ち上がり、スクリーンの向こう側をまわって、数秒だけ影を生み出したあと、無言で元のポジションに戻りました。
はっとする私。私のために歩いてくれたようです。監視さんにお礼の言葉を述べます。
すばらしいホスピタリティ!
この作品の側には「愛が十分な壁でないとき」。
中庭に面して立てられたぶあつい壁に穴があけられ、その向こうに見える景色が万華鏡の「素材」として機能する作品。筒の断面は手前から奥に向けてサイズを減じていく多角形であり、その奥に結ばれるイメージも複雑な形となります。
この作品を見たあと、その中庭を貫くガラス張りの廊下に立っておりますと、突然アラレが降り始めました。カラカラという音をたて、建物の壁や屋根、地面にぶつかり、はねる様子は雪とはまるで異質なもの。急いで先ほどの「窓万華鏡」に引き返しますと…万華鏡のなかで白い粒々が踊っているように見えました。
はじめ小さかったアラレはやがて直径1センチ以上の雹になり、音はカラカラからガラガラへ。別の中庭にある作品「スイミング・プール」はどうなっているかな?と見に行くと、プールサイドはすっかり真っ白になっていました。

展覧会終盤では、壮大な空間を思わせる「虹の地平」と呼びたくなるような作品と出会いました。円形のプランを持つ大きな展示室に展示されているその作品は「水の彩るあなたの水平線」という名前。展示室の中央に巨大な水盤が置かれ、その中央にある光源がみなもに虹色の輪を作り出し、また、壁にも人間の身長よりもやや上方に虹色の帯が投影され部屋を一周しています。ここで思い出したのは、この夏の皆既日食の時にNHKが南方の島から中継していた映像。その島が日食の陰に入り暗闇に包まれたとき、水平線付近に360度わたり朝焼けのような光が出現したのです。
ほかにお客さんもいなかったので、床に座ってしばらくその景色を眺めました。
チラシやポスターに使われている「あなたが創りだす空気の色地図」は霧で充満した空間が赤青緑の光で染められている作品。ひとりで歩くには心細くなるような霧の濃度です。この作品は複数の鑑賞者がいたほうが、人が突然現れたり消えたりする感じがわかって面白いかもしれません。
そのあと、会場をもう一周してみました。
先ほど短時間で通過してしまった「一色の部屋」に入ってみると…二人組のお客さんが歩いていました。その二人が、なんと、モノクロなのです!自分の服や持物を見てみると…これもモノクロ。トートバッグの緑色もスキニーの赤も認識できず、すべて灰色の諧調。オレンジの光はすべてのものから色を奪っていたのです。
(思い出すだけで目がチカチカしています)
この作品も、展示室にひとりで入るとその面白さが十分に味わえない性質のものといえます。
オラファーの作品をまとめてみることが出来たのはよかったのですが、率直な感想としては、この夏森美術館で見た「投影される君の歓迎」がひきつづいちばん好きな作品に位置づけられそう。なお、この展覧会では二人以上で見たほうが、作品と戯れる喜びをより一層感じられるよう。これから見に行く方は、お誘いあわせのうえ訪問されることをおすすめいたします。
理系や医系の方とお出かけになるのもよいかもしれません。
その後、コレクション展も観覧しました。タイトルは「
shift-揺らぎの場」です。
フランシス・アリスのペインティングは小さな画面ですが、神話的主題を感じさせるテーマやナイーブアートを思わせるちょっとヘタウマな描写、すこし荒れた感じのマチエルがメキシコ壁画運動ゆかりの作品を思わせるもの…とここで手元の出品リストを見てみると1959年生まれのこのアーティストはメキシコ在住とのこと、出身はアントワープだそうなのですが。
映像作品ではアン・ウィルソンのものが面白かったです。白い背景を舞台装置とし、糸やまちばりのようなものがコミカルに動くアニメーション。登場人物たちはそれぞれ無関心そうに動いたり、あるいはいさかいを起こしたりしています。「この人、糸をみているうちにそれが動き出したのを目にしてしまったんだろうなあ…」と思う。
日本人作家では、村山留里子さんと須田悦弘さんの作品がありました。
村山さんの作品は、近年ほんとうに目にする機会が多い。ビーズや造花が過剰に盛られたシリーズの支持体は、今回はコルクでした。それも木から剥ぎ取ったばかりの形を残したもの。
今回はゴッテリ装飾系の作品以外に、巨大なシートが天井から吊り下げられたのちその裾を床に横臥させる作品も展示されていました。
展示室の入り口から見るとそれはまるでデジタル処理によるモザイク模様のようでしたが、実際は極彩色の小さな布をはぎ合わせたものです。目を細めて眺めてみると、なんとなく「踊る人物」みたいなイメージが浮かんできましたが、見る人によって様々なものが出現しそうです。また、この作品は裏側から見たほうが美しいと思うひとも多いかもしれません。それは向こう側からの光をうけてまるでステンドグラスのようであり、あらわになった接合部がその作業量の過大さを表していました(同じタイミングで会場に入ってきたフレンチスピーカーも裏側から見たときの反応が大きかった気が)。
装飾過多な立体作品がバロックならこちらはゴシック。
精巧な木彫によって植物を模した須田さんの作品は、今回は雑草とバラをモチーフとしたものが展示されていました。雑草については床の隙間から生えている状況もふくめ非常に的確だと思ったのですが、バラの作品については微妙なところ。白い壁面の上寄りのほうに、パープルベージュのバラの枝が一本とりつけられ、そこから数枚の花びらが散っているという状況。壁の上部にバラの枝がくっついていることも、精気のない花の色も、花片が散っているのもどこか演出過剰気味。あるいは、すこしいやらしさを含んだこの雰囲気は、意図的なものなのでしょうか?
長期インスタレーションルームではピーター・ニューマン氏の映像作品「フリー・アット・ラスト」が上映されていました。
スカイダイビングをしながらヨガをする人物をとらえた、一見するとちょっとおバカ系なムービー。出品リストには「自身の外の世界を身体感覚で直に受ける興奮状態と自身の内面へと向かう精神的な行為であるヨガという瞑想の動作は、アプローチは異なるが、ともに、世界における人間の存在を捉えようとする姿勢が窺える」と書いてあります。その字面は理解できないことはないですが、この作品はリテラルよりもむしろフィジカルに味わうべきものかと。カメラマン自身も空を飛んでいるので、その映像は突然天地がひっくり帰ったり、あるいはダイバーが画面の中で急に小さくなったり、消えてしまったりするなど、見ているうちにこちらも緊張感と浮遊感にさらされます。ヨガができるひとはポーズをとりながらの鑑賞を是非。
最後に、ジェームズ・タレルの部屋へ。
雷鳴も聞こえたこの日、空は少し不機嫌そうな色でした。

夕食は、出発前に勤務先の大先輩からご紹介いただいた「
もりもり寿司」、金沢駅前店で。
チェーン店の回転寿司ですが、内装もほどほどに垢抜けており、「1月13日…」と冠された手書きのメニューに、期待が高まります。
私はわがままな客なので、回転寿司に行っても「シャリ小希望」をいいわけに職人さんに握って頂くことが多いのですが、少し残念なのは2貫ずつ提供されるとあまり種類が食べられないということ。ただしこちらのお店では複数のネタが1貫ずつセットになった企画のお皿も豊富にあり、赤身、白身、貝などを様々に味わうことができました。
特に印象深かったのは、さざえ。脳天に響くくらいの歯ごたえとその後に来る甘みに、なんとなく
栄螺形兜(東京国立博物館)の勇ましさと愛嬌を思い出しました…。
そのほか事前にリコメンド頂いていた「がすえび」もいただくことが出来ました。
豊かな漁場が近いせいか基本的には素材を生かすスタイルが中心のようですが、白身がさりげなく昆布で〆てあるあたりは、都市らしい食文化の気配が。お魚の説明など、いろいろ良くしてくださった、感じの良い職人さんにも感謝です。
宿泊地である富山へ向かうため、再び金沢駅へ。
ここではホームで「能登・北陸 撮影スポット」という貼り紙を見つけました。車両のイラストからはフキダシが出ていて、そこには「3月12日(金)の出発を最後に、みなさんとお別れすることになりました」と、あります…。

富山駅から歩いてこの日の宿「東横イン」に向かいます。雪のかさが半端でなく、キャリーバッグは全く機能せず。
こちらのホテルはシングル4300円~なので、交通費とあわせても今回の旅の予算は8000円代におさまる計算です(今回は荒天のため一部特急をつかってしまいましたが)。ちなみに、東京~金沢間は、新幹線+特急を利用すると往復交通費だけでも25,000円かかります。
また、こちらには部屋に加湿器が常備されていました(ビジネスホテルに宿泊するときに気を揉むのが空気の乾燥で、私は熱湯をバスタブに溜めてから寝るなどの対策をしています)。さらに女子にはボディケアグッズのプレゼント付き。アロマな入浴剤が冷えた身体にありがたかったです。
(つづく)